大判例

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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)224号 判決

控訴人

中西和子

控訴人

中西恵

右法定代理人親権者母

中西和子

右控訴人ら訴訟代理人

佐伯幸男

浅井利一

被控訴人

右代表者法務大臣

奥野誠亮

右指定代理人

石川善則

外七名

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

(申立)

控訴人ら代理人らは、「原判決を取り消す。被控訴人は、控訴人中西和子に対し金一六五二万円、同中西恵に対し金三九九〇万円及びこれらに対する昭和五一年六月五日から支払済みまでの年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行宣言を求め、被控訴代理人らは、控訴棄却の判決を求めた。

(主張及び証拠関係)

次のとおり付加、補正するほかは原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。(但し、原判決四枚目―記録二〇丁―表八行目「二三分」を「三二分」と、同九枚目―記録二五丁目―裏四行目「三八五」を「三六二」と各訂正する。)

第一控訴人ら代理人らの主張

一  暾夫は、公務のため入間基地から千歳基地へ出張を命ぜられ、かつその往復の交通機関として本件事故機への同乗を命ぜられたのであるから、私法上の旅客運送契約における運送責任者の場合と同様に、被控訴人は暾夫に対して安全運航の責任を負担したものであり、これが即ち本件における被控訴人の安全配慮義務にほかならない。

二  本訴請求は、被控訴人が負担すべき損害賠償額の一部請求である。即ち

1 暾夫の自衛隊在職中の逸失利益は、昭和五一年ないし昭和五三年の給与改訂に従つて算定すると、別表1記載のとおり金二七一〇万九九六五円であり、原判決添付別表一を右別表1に訂正する。原判決事実摘示第二、一3(一)(1)の金二四八五万円はその一部である。

2 暾夫の退職金は金九六七万〇四三二円であり、その算式は別表1の最下段記載のとおりであるから、原判決事実摘示第二、一3(一)(2)に記載の算式を右のように訂正する。同項の金七八六万円はその一部である。

3 暾夫の自衛隊退職後の逸失利益については、その労働限界年令を六七歳とし、昭和五三年度の賃金センサス第一巻第一表産業企業計新大卒の給与を基準とし、更にこれに退職年金を加えると、別表2記載のとおり合計金三九〇二万六二六〇円となる。原判決事実摘示第二、一3(一)(3)記載の暾夫の退職後の逸失利益金一四七一万円はその一部であり、同項のその余の記載を右のように訂正する。

4 そのほかに、控訴人和子の共済年金取得分の逸失利益金四六一万三二三九円がある。これは別表2記載の暾夫の退職年金の半額を基準としたもので、その算定方法は別表3記載のとおりである。

三1  被控訴代理人らの主張三1の金額を控訴人和子が受領したことは認める。

2  被控訴代理人の主張三2の金額を控訴人和子が将来受領しうることは認める。しかし、これらは本訴請求の損害賠償額から控除されるべきではない。

第二  被控訴代理人らの主張

控訴人ら代理人らの主張一は争う。本件事案においては、保安管制気象団司令が山本に事故機の操縦を、暾夫にその同乗を命じたのであつて、暾夫の搭乗は公務の遂行にほかならず、この公務の遂行につき被控訴人が負うべき安全配慮義務は、構造上・整備上瑕疵のない航空機を使用させること並びに十分な操縦技能を備えた操縦士を選任配置することに尽きるのであり、その履行補助者は右司令である。

二 控訴人ら代理人らの主張二1ないし4の損害額の主張は争う。

三1 被控訴人は、控訴人和子に対し昭和四二年一〇月から昭和五五年四月までに、遺族補償年金(国家公務員災害補償法一六条、一七条)金九〇六万八二一七円、遺族年金(恩給法及び国家公務員共済組合法八八条)金三七五万四二六五円、特別給付金(人事院規則一六―三、一九条の一〇)金七二万一二九二円及び奨学援護金(同規則一六―三、一五条)金四〇万八〇〇〇円合計金一三九五万一七七四円を支払つた。従つて控訴人和子の損害額から右金額を控除すべきである。

2 被控訴人は、控訴人和子に対し、昭和五五年五月から昭和八九年三月(厚生省昭和五三年簡易生命表によると同控訴人(当四四年)の平均余命は34.33年、即ち七八才に達するとき)まで、(イ)別紙第一記載の遺族補償年金、その現価金一六一二万九七〇八円、(ロ)別紙第二記載の遺族年金、その現価一〇七五万二六四九円、(ハ)右(イ)の遺族補償年金の一〇〇分の二〇に当る特別給付金三二二万五九四一円並びに(ニ)控訴人恵が専門学校(三年制)へ進学したから、昭和五八年三月まで別紙第三記載の奨学援助金、その現価金三八万一七六〇円合計金三〇四九万〇〇五八円を支給すべきこととなるので、この金額も控訴人和子の損害額から控除されるべきである。

なお、原判決事実摘示第二、三2の事実を右1、2のとおり訂正する。

第三  証拠〈略〉

理由

当裁判所は、本訴請求はいずれも理由がないものと判断するものであり、その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

一原判決一三枚目―記録二九丁―表一行目「の過失」の次に「(飛行時間の計算違いを含む。以下同じ)」を加える。

二同一三枚目裏三行目「従つて、」から九行目「相当とするが、」までを削り、これに替えて次のとおりそう入する。

「しかして、上司の指示のもとに、操縦士である自衛隊員の操縦する自衛隊機に他の自衛隊員を公務として同乗させるに際して、国が右同乗員に対して負う安全配慮義務は、構造上・整備上瑕疵のない航空機を使用させ、十分に訓練されて適正な操縦をなしうる技能を備えた操縦士を選任配置し、かつ、その運航を誘導すべく適切な航空交通管制を実施すること等につき周到な配慮をなすべき義務がその内容をなしているものと解するのが相当である(控訴人らは、右安全配慮義務につき、国は、右同乗員に対して、私法上の旅客運送契約における運送責任者の場合と同様の安全運航の責任を負う旨主張するが、独自の見解で採用できない。)。そして、右安全配慮義務の履行補助者が何人であるかについては、右同乗員に対して搭乗を命じた者、当該操縦士を選任配置した者がこれに該当することはいうまでもないが、その他にも、問題となつた具体的な管理行為の如何により、それぞれ異る管理責任者が右履行補助者となりうるものと解されるところ、右操縦士が、運航中における操縦等に危険が生じないように同乗員の機内における行動を管理すべき責任を有することは明らかであるから、この点については右操縦士もまた国の安全配慮義務の履行補助者であるというべきであるが、右操縦士の操縦行為そのものは、何ら他の同乗員に対する管理作用を含んでいないから、この面において右操縦士が右履行補助者となることは考える余地がないといわざるをえない。従つて、操縦士の操縦上の過失が問題となつている場合においては、特段の事情がある場合は格別、国の負担する安全配慮義務は、前述した適正な操縦技能を備えた操縦士を選任配置すべき義務以外には考えられないのであり、」

三同一三枚目裏九行目、原判決一四枚目―記録三〇丁―表二行目及び五行目の各「当該」をそれぞれ「操縦」と、一行目「自衛隊員」を「同乗員」と各訂正する。

四同一四枚目裏「をえない。」の次に「(原審証人関憲生の証言によれば、山本は千歳飛行場を離陸するに先立つて、同飛行場当直幹部に対し、前述の飛行時間を間違えた飛行計画を提出していることが認められるが、山本はベテランの部類に属する飛行経験を有し、その飛行中に当然右間違えに気づくべきことが期待されたため、右飛行場当直幹部は右飛行計画を殊更問題視しなかつたことも右証言によつて認められるから、右のように当初誤つた飛行計画が提出されていたことをもつて直ちに山本が本件のような針路の誤ちを犯すことを被控訴人が予見しえたものとはいえない。)。」を加える。

以上のとおり本訴請求はいずれも棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴はいずれも理由がないものとしてこれを棄却することとし、民訴法九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(田宮重男 新田圭一 真榮田哲)

別表1〜3、別紙第一〜第三〈省略〉

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